小さいころから音楽に囲まれて育ち、高校ではライブに心を動かされた。そして今、彼女は専門学校でレコーディングを学びながら、ライブ現場での録音だけに限らず、同世代バンドのマネージャーとして奔走している。「裏方として音を支えたい」――そんな思いを胸に、一歩ずつ夢をかたちにしていく彼女の姿は、同じように目標に向かって頑張る人たちや、まだ夢が定まらない多くの人に勇気を与えるに違いない。
【プロフィール】
酒谷 美緒(さかたに みお)
2005年生まれ。東京ビジュアルアーツ・アカデミーの音楽学科に在学中。ライブレコーディングの現場で経験を積みながら、同世代ロックバンドのマネージャーとしても活動している。
「好き」が道をつくる
――音楽に興味を持ったのは、どんなきっかけからですか?
酒谷 美緒(以下、酒谷):親が二人とも音楽好きで、物心ついたときからずっと身近にありました。小中学生の頃はジャニーズやアイドル、ネットで活動しているアーティストとか、いろんなジャンルを幅広く聴いていましたね。高校では周りに軽音部に所属している友達が多くて、先輩のライブを観に行くうちにバンドがすごく好きになって。「音楽を仕事にしたいな」って思うようになりました。
――今、通っている専門学校ではどんなことを学んでいますか?
酒谷:レコーディングの技術を学んでいます。もともとバンドと関わる仕事がしたくて、アーティストと長くコミュニケーションを取りながら音楽づくりができるのはレコーディングだと聞いて。それでこの道に進みました。
でも実際に授業を受けてみると、周りとの差を感じてしまって、「向いてないかも……」って落ち込むこともありました。そんなとき、先輩にライブレコーディングの現場に誘われたのが転機でした。
現場とバンド、2つの挑戦
――実際に足を運び、そのときの印象はいかがでしたか?
酒谷:現場に行ってみたら、「めっちゃ楽しい!」って思いました。ライブレコーディングって、ライブ中の音を録って、それを配信やDVD用に仕上げる仕事なんですけど、アーティストとは直接関わらず、音響や映像のスタッフと連携して動きます。時間との勝負だから、無駄な動きがないように事前の確認やチームワークがすごく大事。そういう裏方としての連携が自分には合っていると思いました。
――バンドのマネージャーもしているそうですね?
酒谷:はい。『プライドの高い深夜のコンビニアルバイト』っていう、2005年生まれの同世代のボーイズバンドのマネージャーをしています。もともと友達で、「マネージャーやってみたい」って言ったら「うちでやる?」って誘われて、そこから始まりました(笑)。SNSのDM対応、バンドが出しているグッズの物販、ライブハウスからの企画共有、機材の手伝いなど、いろいろやっています。出演依頼が来たらグループラインに流して、メンバーと相談して決める。バンドとライブハウスの“かけ橋”みたいな役割ですね。
――レコーディングの勉強をしながらバンドのマネージャーとしても活動されていますが、どのように両立されていますか?
酒谷:めちゃくちゃ忙しいです(笑)。学校ではレコーディングの勉強をしつつ、バンドのライブがあるときはマネージャーとして動いていて、さらに別のバイトもしているので、毎日ほとんど予定が詰まっています。でも私は、家でじっとしているよりも、予定が詰まっているほうが好きなんです。むしろ、何もしていない時間がもったいなく感じちゃって。バイト終わりにライブへ行って、そのまま別の深夜のバイトに行くこともありますけど、それが楽しいと思えるタイプです。マネージャーの仕事って、SNSのDM対応やライブの調整など日常的にちょこちょこやることが多いんですけど、空いている時間を見つけて少しずつ進めるようにしています。あと、レコーディングで学んでいる知識がバンドの仕事で活かせる場面もあって。例えば授業でドラムのマイクの立て方を教わり、「こうやって立てているんだ」って理解できるだけで、現場で動きやすくなるんですよね。勉強もマネージャー業も、どっちも無駄にならないと思っています。
バンドの方々との出番前の会話の様子。和気あいあいとしており、本番前はいつもふざけあった会話をしているという。
「好き」を仕事に変えていく
――マネージャーの仕事で、やりがいを感じるのはどんなときですか?
酒谷:ライブがうまくいったとき、お客さんがたくさん来てくれたとき、それが一番嬉しいです。「このバンド名見たことあるから来たよ」って言ってもらえたり、入場規制がかかったりすると、やってきて良かったなって思います。あと、知っているバンドと対バンできるようになったときも、ちょっと“保護者目線”になっちゃいますね(笑)。
――これからの夢について教えてください。
酒谷:今の目標は、マネージャーをしているバンドを大きなフェスに出させてあげること。いま「ムロフェス」っていうフェスのオーディションに挑戦中で、そこに出られたらすごく嬉しいです。将来的には、音楽に関わることをマルチにやっていきたい。レコーディング、マネジメント、ライブハウスの仕事、イベントの企画とか、まだひとつに決めきれてないけど、いろんなことに挑戦し続けたいです。
ライブ後の物販の様子。ファンの方に感謝を述べたり会話をしながら丁寧に接客している姿は、マネージャー活動に真摯になっている証だ。
――将来の夢がまだ見つからない人へ、メッセージをお願いします。
酒谷:「やってみたいな」と思うことがあるなら、まずは言葉にして、動いてみることが大事だと思います。私は、先生に相談したり、先輩に誘われたり、自分から話してみたことで今の活動につながりました。「やりたい」って気持ちは、行動に変えることでチャンスになる。
だから、迷っていても一歩動いてみる。それが、自分だけの道につながるんじゃないかなって思います。
インタビュー中の酒谷さん。楽しそうにバンドのことを語る。
取材・文・撮影/臼井達也