映像表現の進化とともに3Dグラフィックは映画やゲーム、広告など幅広い分野で不可欠な技術となりつつある。かつては限られた環境でしか扱えなかった3Dも、今や個人でも制作できる時代に。
今回はそんな3Dグラフィックを用いた映像制作に挑戦する大学生にインタビューをした。彼がどのように技術を学び、どんな表現を追求しているのかを通じて、3D映像制作の奥深さを探りたい。
【プロフィール】
安田 陽(やすだ はる)
2003年9月3日生まれ。2022年に日本大学芸術学部映像学科入学。テレビアニメ『忘却バッテリー』に3Dレイアウト補佐として参加。日芸祭2024『レイワレトロ』ではプロジェクションマッピングの制作を務めた。
3D制作を始めたきっかけ、ゼロから作ることの難しさ
――3D制作に興味を持ったきっかけを教えてください。
安田 陽(以下、安田):自分が3Dの制作を始めたのは『ニコニコ動画』がきっかけでした。2010年代のニコニコ動画はまだかなりアングラな雰囲気がありましたが、それと同時に個性がすごく出ていました。MMDというソフトがあるんですけれど、それを使って音楽に合わせてモデリングしたキャラクターにダンスを踊らせる動画が何本も投稿されていて、自分もやってみたいなと思ったんです。
――初心者にはMMDはとても扱いやすいソフトですよね。
安田:はい。MMDは、動かすこと自体はモーションや背景がネットにあるので、かなり使いやすいソフトです。でも、カメラを動かすのに動画編集でいうところのキーフレームというものの理解が必要になることが一つ大きな壁としてあります。自分は動画編集よりも先にMMDを触り始めたので、初めはキーフレームを筆頭に分からないことだらけでした。
それでも試行錯誤して、少し慣れ始めてきたときにふと思ったんです。MMDって、歌はもちろん表情からカメラの動きまで素材がネットにあるので、誰でも始めやすいのは良いことだと思うけど、素材だけじゃつまらないなって。だからいろいろ試してみようと思って、一つ一つ毎回違うことにチャレンジして作品を作り始めました。
初めはカメラの動きだけだったけど、次はサビのところを工夫してみたり。そこでモデリングを自分で作りたいと思ったんです。それが本当の意味で足を踏み入れたときで、Blenderなどの3Dモデル制作ソフトを本格的に触り始めた時期でもあります。
MMDから始まった3Dモデリングによる映像制作は、今ではオリジナルアニメーションを制作できるほどになったという。引用作品「Unsustainable」より
進路を決める時期が来て、頭に浮かんだのが3Dだった
――このときに将来はこの道へ進もうと決めたんですか?
安田:MMDを触っていたのは高校生の頃で、その頃からプログラミングをできる友人と3Dソフトを使える友人と3人で『高校を卒業したらいっしょにゲームを作ろう!』という話をしていました。そこからより本格的に勉強したいと思うようになりました。
そのあと、進路を考える季節が来て、何かを表現したいという気持ちがますます強くなり、『自分が一番できることはなんだろう?』と思ったときに、やはり3Dでした。3Dは色々な作品に使われています。ゲームはもちろん、アニメにも。でもその前に、物を動かすすべての作品において映像というのはその根本だと思ったので、一度深く触れるべきだと考えて日本大学芸術学部映像学科へ進路を決めました。
『忘却バッテリー』では3DLO、学際ではプロジェクションマッピングの責任者を担うことに
――大学に入ってからはどのような活動をすることになったのでしょうか?
安田:教授の紹介でアニメの制作会社へ出入りするようになったり、学園祭の運営でプロジェクションマッピングを作ったりしました。
アニメはMAPPAさんの『忘却バッテリー』という作品に携わらせていただきました。ひとくくりにアニメといっても、最近では背景は3Dが主流になってきています。『忘却バッテリー』だったらキャラクターは手書きで、学校やグラウンドなどは3Dです。その中で自分は3Dレイアウト補佐(以下3DLO)という役割を担いました。3Dの画角や背景を決める方の補佐をする形ですね。
――学園祭のプロジェクションマッピングでは、具体的にどのような作業をしたのでしょうか?
安田:大学一年生の頃からプロジェクションマッピングはありましたが、壁に学園祭のいい感じの写真が出るだけみたいな感じでした。業者さんに頼んでこのレベルだったら、自分ならもっとできるんじゃないかなという思いがありました。
大学三年生になって学園祭のフィナーレの責任者になったとき、自分の今の技術と相談して面白いことをやってみたいと、学生課の教授にお話ししたんです。初めはノウハウがなかったので苦労しましたが、プロジェクターの動向や計算を授業でやっていたこともあり、加えてプロジェクションマッピングを仕事にしてる教授にも協力を仰いで、何とか完成させることができました。
建物自体の図面をもらって3Dで一度建物を作って映像を当てたときに、どこに何が映るのかシミュレーションできたので、勉強したことがかなり役に立ったと思います。完全に一人で制作したため、締め切りはかなりギリギリでしたが、学園祭でみんなが盛り上がっている姿を見てやってよかったなと思いました。
実際のプロジェクションマッピング。内容は2本立てで、キャラクターの動きにモーションキャプチャーを使用したりなど随所にこだわりがある。
「好き」だからこそ、苦労することがあっても楽しめる気がする
――最後に将来の夢をお聞かせください。
安田:自分はけっこう飽き性なんですけど、その長続きしない性分の中でずっと続いてるのが3Dや映像なんです。趣味の延長でここまでやってこれたので、これを仕事にしたいと思っています。ずっと面白いと思えているからこそ、これを仕事にしても苦労することはあっても、心の奥底では楽しめるんじゃないかなって気がしています。
もちろん3Dでゲームを作りたい気持ちはありますが、自分のやりたいことを突き詰めたいと思っているので、媒体にこだわりは持っていません。『ゲームに自分の3Dを』という最終的な目標を持ちつつ、今は技術を磨きたいです!
3Dと映像について熱く語る安田さん。
安田 陽さんのホームページ
取材・文・撮影/島田京太郎