葛西の静かな場所に一際おしゃれなパン屋が店を構えています。店主の間々田さんは元プロボクサー。スポーツマンらしい力強い表情です。プロボクサーからパン屋に転職したのは、小さい頃からのもう一つの夢だったからです。
「幼稚園のころから『あしたのジョー』を観ていた影響でボクシングを始めました。プロボクサーを夢見ていた僕がパン屋に憧れたのは、幼稚園のころ。街のパン屋が焼きたてのパンを配達してくれていて、焼きたてのおいしさを知ったからです。いつかパン屋になりたいと思うようになっていて、24歳でボクシングをやめたときに、小さいころパン屋になりたかったなと思い出してパン屋への道が始まりました。ホテルオークラのパン屋で5年間働いて、ホテルの経験だけだとパン屋を開店するのは難しいと思い、その後、街のパン屋で6年間働きました。修行の経験を活かし開いたのが今のお店です」
多くの経験を積みパン屋になるという夢を叶えた間々田さん。江戸川区の葛西に店を開くことを決めたのは、街の風景が気に入ったからでした。「パン屋になろうと決心したときから葛西に越してきて、11年くらい住んでいました。初めは自分のイメージする街は葛西ではないと思っていましたが、唯一、ある通りが気になっていました。大きなけやき並木があって、雰囲気が良かったんです。今は伐採されて違う雰囲気になってしまったのですが……。ある日、車で通ったときに、お店を出したいと思える場所が偶然空いていて、『ここだ!』と即決しました。苦労したこともたくさんあって、空調を良くしようと壁に穴を開けようとしてもビルのオーナーのOKがないとできませんでした。オープンしてからすぐに多くのお客さまに利用していただけるようになったのですが、仕事が沢山ありすぎて1週間くらい寝むれない日々も続きました」
多くのお客さんが訪れる自身のお店で多忙な日々を送る間々田さん。パン屋の1日とはいったいどのようなものなのでしょう。
「朝4時から8時のオープンまでに食パンを作ります。パンを作りながら次の日の準備も進めていき、お店は18時から19時の間に閉めます。全ての仕事が終わるのは21時前後ですね。平日200人、土日は300人くらいのお客さまに来ていただています。お子さま連れのお母さんからおじいさん、おばあさんまで幅広く利用してもらっています。若い方からお年を召した方まで、職業もサラリーマンから職人さん、お医者さん、学校の先生、漫画家など多くのお客さんが訪れます。季節によっても利用者数の違いがあり、夏の暑いときよりも、涼しくなった秋のほうが、お客さまが多くなります」
幅広い層のお客さんが訪れている中で、間々田さんが大切にしているこだわりがあれば知りたいところです。
「自分が作りたいパンと、お客さんが求めているパンのちょうど合致する味を探してお店に出しています。一推しはバケットですが、どの種類のパンも同じだけの愛情を注いで作っています。低温で長時間熟成させて生地を作ることで、小麦本来の香りや甘味を引き出しています。食パンは3種類の生地をつかっていて、朝1番に出すのがミルキーな甘さを際立てさせた「北海道ミルク食パン」。もうひとつが北海道産の小麦「キタノカオリ」を使った食パンでもちもち感を感じられる食パンです。
間々田さんはボクサーをやっていたからこそパン屋で活かせていることがあるといいます。
「ボクシングは反復練習を毎日毎日やるからこそできるようになっていきます。何も考えていなかったら成長していかなくて、『なんでこうなったんだろう?』と考えることで自分の経験になって成長していくのです。それはパンを作る仕事も同じこと。繰り返し繰り返し同じことを続けて技術を習得していきます。パン屋の仕事は想像以上に大変で、体力や集中力が必要なんですよ」
今、間々田さんは充実感を感じながら、毎日パンを焼いています。愛情がこもったパンの数々。みなさんも一度購入してみてはいかがでしょうか?
取材:大橋滉輝、斉藤大世、林 海斗、早坂 琉 |